さよなら自分

終わったことを書いていきます。

ラブホのライター以上に危険なライターなんてきっとない

ここ数年で喫煙者の肩身は極端に狭くなった。駅のホームやコンビニ入り口横などからも灰皿が消えている(まだ置いてるコンビニもあるけど)。久しぶりに会う友人らも見ないうちに禁煙者へ。マッチングアプリを覗いても「喫煙者はごめんなさい」という注意文を記載してる人も多くなり、喫煙者=害という構図は覆せなくなっている。

僕は相変わらず吸っているが、数年前に紙から電子に変えた。外出時の必須の持ち物でもなく、外で喫煙所を探すようなことはしていない。購入する機会も、紙だった頃の2日に一度から、4日に一度のペースに落ちた。もう止めてもいい気もするが、時折訪れる"口が寂しい”という衝動に駆られて止めるチャンスを逃し続けている。

 

会社の喫煙所(ベランダ)に幾つかライターが置いてある。そのライターは、社内共有ライターとして喫煙者がテキトーに使い、テキトーに戻しているライターだ。小生は電子なのでライターに関心ないものの、その中の一つにラブホのライターを見つけ、15年前の悲劇を思い出した。

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Photo by Kinga Lopatin on Unsplash

ラブホのライター以上に危険なライターなんてきっとない

15年前、僕はライターを無くしてばかりいた。飲み会、飲食店は勿論、会社や喫煙所などで『あれ?ライターない!?』と、ライターを見失い、その度周囲に借りてばかり。

飲みの席では、テーブルにライターが雑に置かれていることもあり、酔った勢いで持ち帰ることも。女性のお持ち帰りこそ出来なかったが、ライターのお持ち帰り数はなかなかの数だ。そのため、当時の家には所有者の分らない百円ライタ ーが山ほどあった。本来なら借りた者に返すのがマナーだが、誰のものか分からないので返すに返せない。

ある日のこと、当時付き合っていた彼女が部屋を訪れ、僕のライター山から一つのライターをピックアップした。そのライターに印字されていたのは「ホテル○○」という、地元駅前にあるラブホテルのライターだ。そこは地元で知らない人はいないラブホである。

そのライターを見て彼女が「これどういうこと?」と、言ってきた。何も隠すことがないので、「こないだの飲み会で誰かのライターを借りてそのまま持って帰ってきたみたい」と、ありのままの事実を述べる。しかし、彼女は引き下がらない。「わざわざこんなライター持って帰るなんてあり得ない。」「いや、記憶が曖昧なんだし、ホテル◯◯には行ってないし、行く相手もいないよ。」と、話は平行線を辿る。

「じゃあ、携帯見せて」と、切り込んできたが、隠すことがないので素直に出した。が、これは失敗に終わる。浮気はしていない。それは事実。ただ、無茶苦茶グラビア画像を探していた痕跡がバレてしまったのだ。熊田陽子、井上和香、吉岡美穂、小野真弓、磯山さやか、山本梓(アズアズ)。それらの画像が携帯のフォルダ内にわんさか保存されているのがバレてしまう。彼女は華奢な体だったため、グラビアアイドルに劣等感に近い何かを抱えていたこともあり、「やっぱりこういうのが好きなんじゃない!!」と、怒鳴られた。

僕にできたことは「いや、これは友達が送ってきたんだよ」という苦しい言い訳のみ。いや、待て。おかしい。なんだこの違和感は?

数日前の飲み会で誰かのライターを持って帰る
┗そのライターが地元では有名なラブホのライター
┗彼女にバレて浮気を疑われる
┗弁明
┗携帯を見せるよう詰められる
┗素直に携帯を提出
┗グラビアアイドルの画像をわんさあ保存していることがバレる
┗彼女激昂

と、怒られるポイントがそもそも違うのだ。僕はそのおかしな状況に笑ってしまったが、彼女の怒りは収まらない。結局その日はそのまま怒って帰ってしまった。ん〜何か嫌なことでもあったのだろうか?いずれにせよ話にならない。今日は何を話しても無駄だな。そう考え、数日静観することにした。

 

数日後、彼女からメールが届いた。そこには「こないだの話の続きがしたい」とシンプルな一文が。今までハートマークやニコニコマークの絵文字を駆使して少々見づらいメールだったが、あまりにシンプルな文面を前にすると、装飾されたメールの時は幸せだったなと思う。僕は「了解!じゃあ、今日の夜ウチ来る?」と返答すると、彼女からは「了解」とだけのシンプルな返信が届く。

まだ怒ってるんだな。会いたかったけど、彼女のメールを見て早く会いたいとは思えなかった。そこで夕方ぐらいに「ごめん!少し残業で残るから先にウチ入って待ってて!」とメールする。そして、会社近くの漫画喫茶で小一時間程時間を潰した。

1時間後に家に帰ると、玄関がキレイになっていることに気付く。履いてない靴は靴箱へ、靴箱上のペンやら印鑑や鍵類も整理整頓されていた。そうかそうか。彼女は自身の早とちりを反省し、部屋を片付けることで「疑って怒ってごめんね」を伝えたかったのだろうと考えた。

部屋のドアを開けて「遅くなってごめんね!」と伝えると、ソファーに彼女が座っていた。ニトリで彼女が「コレいいじゃん!」と言って購入したソファだ。お、値段以上ニトリのソファである。彼女は一言「おかえりなさい」と。いつもと少し様子が違うと思ったら、物凄いメイクが濃く、洋服もいつものカジュアルさはなく、軽いパーティーに参加しても違和感ないドレッシーなものである。

ん?全く状況が理解できないでいると「ちょっと座って」と。言われるまま座ると「こないだは色々言ってごめんね。」「いや、もういいよ」と大人の対応を見せ「今日は随分派手だね」と、いつものやり取りに戻そうとしたが、彼女は突然「別れてください」と、信じ難い発言をする。「え?なんで?」と確認すると「こないだのライターはともかく、私は◯◯(僕のあだ名)のことが信じられない自分が嫌になっちゃったの」と。

ん?まだピンとこない。僕は冷静に「疑うのは仕方ないし、今後は俺も気をつけるよ。ただ、それと別れるって違くない?」と確認してみたが、彼女は黙ってばかり。黙っている彼女に「別れたいの?」と聞くと、何も言わずに頷いた……。

どこでズレが生じたのかはよく分かってない。ラブホのライターだって完全にシロだし、浮気経験もなく、(自分で言うのもおこがましいが)彼女には優しくしてきたつもりだ。それでも彼女は別れたいという。別れたいと考えている人を無理くり繋ぎ止めたところで先がないと思うようになり、しばらくして「分かったよ……」と返答する。

勿論納得はしていない。でも、僕はこの気まずい雰囲気に耐えられる程のメンタルを持ち合わせてなかった。こうして彼女との関係は呆気なく終焉を迎えることに。彼女が帰った部屋を見渡すと、彼女の荷物はキレイになくなっていた。写真も剥がされ(それはこっちがやることだろ)、歯ブラシは一つに。彼女は今日別れるということを決めていたのだろう。

一つ気になることがあった。彼女はなぜバッチリメイクとドレッシーな格好で僕を迎えたのか?それは「最後の姿はキレイでありたい」と考えての判断らしい。ん〜……最後まで良く分からなかった。付き合って2年。分かっているつもりでいたが、全然彼女のことを分かっていなかったのだ。

別れた理由の

私は◯◯(僕のあだ名)のことが信じられない自分が嫌になっちゃったの

含めて随分と自分本位な人だったらしい。気づかなかったのか、気づこうとしなかったのか……。

彼女と別れて以降、一切他人のライターを持ち帰らなくなった。禁煙は無理として、借りたライタ ーはその場できちんと返す。そんな当たり前のことを、失恋を通じて身につけることができるのだから人生は分からない。

1年後

問題の発端となった例のラブホがリニューアルしていた。外観はくすんだ青から真っ白になり、一見高級ホテルである。入り口も以前の気恥ずかしい入り口ではなく、堂々入っても「あ、自分ビジネス利用です」な雰囲気を装うことも可能だ。

「凄いなぁ〜」と入り口付近からホテルを眺めていたら、1組のカップルが出てきた。男はLDHにいそうな色黒の大柄な男で、女は華奢な、、、というか元カノだった。元カノは僕と目があい、直ぐに視線を外す。

別れてから1年後、別れの発端になったライターに印字されていたラブホを元カノが利用していた。ゴツい男と。新しい恋を始めるのは自由だし、ラブホへ行くのも自由。そこをとやかく言う権利がないことは分かっている。でも、どうも釈然としない。

「あ、ここのラブホ行くんだ」と。間違いなく元カノもライターのことを思い出したはずだ。そして部屋の中にあるライターを見たことだろう。懐かしいなんて思っただろうか。もしくは、ライターを見て僕への怒りが再燃したのだろうか。その答えを知る由もない。ただ、ラブホから出てきた彼女の笑顔から察するに、部屋の中で相当熱い火がついただろうことは容易に想像できた。そんな想像してニヤニヤするのだからフラれて当然だなと思う。

ライターは危険な物だ。子供が不用意に使えないよう親御さんは取り扱いに注意して頂きたい。最近のは相当な力を加えないと火がつかないものもあるが、一番は目の届かない場所に置いておくこと。それでも油断はできない。そしてライターを数本を保有している人は、そのライターが他の人に見られても良いものか今一度確認することを推奨する。

もし、その中にラブホのライターがあれば注意だ。彼女なしの自己スリスリボーイは構わないが、彼女や奥さんがいる人は、そのライターで疑惑も破綻もある可能性があることを肝に銘じて頂きたい。

ラブホのライター以上に危険なライターなんてきっとない。